子どもの睡眠教育
子どもにとっての睡眠の大切さは、誰しも理解していることでしょう。しかし、日本の子どもは睡眠不足の傾向があります。
子どもの睡眠不足で怖いのは、脳の発達や自尊感情への影響です。
健やかな成長のためには、十分な睡眠時間を確保できる環境作りが大切。しかし、スマホやゲームなど遊び道具が周りにある現代の環境で、ただ「早く寝なさい」と言い聞かせるだけでは限界があります。
そこで注目されているのが、子どもの睡眠教育です。睡眠教育によって不登校数が減少した事例もあります。子どもの睡眠教育について詳しくまとめました。
日本は子どもも大人も睡眠不足
日本は睡眠不足大国です。
OECD(経済協力開発機構)が2009年に発表した国際比較において、日本の睡眠時間は「470分(7時間50分)」でした。
(参照:https://www.oecd.org/els/soc/42707429.pdf)
OECD加盟国の平均睡眠時間は8時間25分。あくまで調査なので、必ずしも実態が反映しているとは言い切れませんが、この調査だけでも、外国と比較して日本人の睡眠時間は30分ほど短いことになります。
日本国内の調査に目を向けてみましょう。2018年の厚生労働省調査(参照:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf)によると、1日の平均睡眠時間は6時間以上7時間未満の割合が最も高いという結果が出ています。男性の32.7%、女性の36.2%です。さらに、6時間未満の割合は、男性 37.5%、女性 40.6%にも上ります。
2020年にブレインスリープがおこなった調査(参照:https://brain-sleep.com/sleep-deviation/research/2020/research2/)では、日本人の1日の平均睡眠時間は「6時間27分」でした。最低睡眠時間は7時間が推奨されていますが、7時間を超える人は40%しかいないという結果になっています。
さらに、ブレインスリープが2021年7月に実施した子どもの睡眠実態調査(5774人対象/調査方法:インターネット)では、親が睡眠不足の家庭では、子どもも睡眠不足になりやすい傾向がみられました。
(参照:https://www.growup-housetour.com/column-smartchildren/sleep-education.html)
日本人は、大人も子どもも、睡眠が不足している現実が浮かび上がってきます。
子どもの睡眠と脳の発達
睡眠は、深い睡眠であるノンレム睡眠と、浅い睡眠であるレム睡眠がありますが、子どもにとってはどちらも重要です。
ノンレム睡眠は、脳も体も眠っている睡眠のこと。ノンレム睡眠中に、成長ホルモンの分泌が促されるため、とても重要な時間です。
また、レム睡眠は、神経回路の発達に関わります。レム睡眠は、夢を見る浅い睡眠で、脳が起きていて体が眠っている睡眠のことです。
ブレインスリープの創業者兼最高研究顧問兼米スタンフォード大学医学部精神科教授の西野精治氏によると、レム睡眠中に神経回路が形成されることが分かってきたとのこと。子どもの脳は、さまざまな刺激を元に「神経回路を作り、不必要なものは除去」というサイクルを繰り返して発達しますが、この作業をレム睡眠中におこなっています。
レム睡眠とノンレム睡眠の繰り返しで、子どもの脳は健やかに成長すると言っても過言ではありません。
大阪府堺市の「みんいく」
子どもの睡眠は、脳や体の成長だけではなく、心にも大きな影響があります。それを証明したのは、大阪での「みんいく」という取り組みでした。
堺市教育委員会指導主事の木田哲生氏の主導で通称「みんいく」という睡眠教育が実施されています。たとえば、学期ごとに2週間分の睡眠と朝食の記録をつける取り組みや、月に一度21時までに寝ることを目指す「はよねるデー」を設けるなどの活動です。
不登校は、原因を探ろうとしても、「しんどい」「だるい」などはっきりしない訴えが多い傾向があります。
そこで睡眠に注目し、熊本大学名誉教授の三池輝久氏の協力の元、みんいくをスタート。結果、ある中学校では、2015年度の不登校生徒数が35人だったところ、2020年度は16人と約半数にまで減りました。また、みんいく実践校では、自尊感情と学習に対する集中力が向上している点も見逃せません。
子どもには、「寝よう」「スマホを夜触るのはやめよう」と伝えても、なかなか伝わりません。それよりも、子どもの話をきいて、「あなたのことが大切だ」というメッセージを伝えながら、自分の意志に任せるとうまくいきます。
保護者や担任など、近しい関係の大人が話をするより、信頼しているものの少し距離があったり、少し怖いと感じていたりするような相手と話す方が効果的だったという結果が出ている点も面白いです。
まとめ
大人は、自分の睡眠不足を実感している人も多いでしょう。しかし、そんな大人につられて子どもまで睡眠不足になっているのが日本の状況です。
子どもの発達のために睡眠は欠かせません。正常な睡眠が取れるよう、環境を整えていきたいものです。その際は、大阪府堺市での「みんいく」の取り組みが参考になるでしょう。
- 睡眠時間と朝食の記録をつける
- 月に一度は21時に寝る日を作る
- 子どもを尊重する対話をし、自発的な睡眠改善を促す
同時に、大人も睡眠不足を解消し、子どもにとってのお手本になるよう心がけていきたいです。
参照記事:東洋経済「睡眠不足が脳の発達や自尊感情を脅かす深刻実態」